い ち ば 


私は、子供の頃から市場が好きだった

暗くなりはじめ また 一日が
終わろうとしている
すこし けだるい夕暮れ時に
幼い手を 母にひかれて行く
そんな市場が好きだった

思えば 背が いちばん低い私が
並んでいる商品たちの いちばん近くにいた

はじめてみるものが ところ狭しとならび
はでな売り浴びせの掛け声と
ギロリと私を睨む さかなの目
おおきな声で あいさつする
おばちゃんたち

おつけもんの樽に
山と詰まれた 大根や菜っ葉
いろんな 色が においが 音が
私の周りに渦巻いて
私をかき乱して 熱気に酔うような
ふわりとした世界

いまでも
市場は 私を呼んでいる

そうだ きっとシルクロードをたどり 
西から東 東から西へと
モノと文化を運び続けた 
あきんど たちも
こどものころから
市場が好きだったのだ

地平線まで続く砂漠のはてに
おおきな夕日が落ちていく

その果てに、まだ見ぬ国、まだ見ぬひと

そして はじめての市場をめざして